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麦藁帽子
夏の夕は何時も心細い。
川に浮かぶ妹の麦藁帽子を拾おうと思ひ
其の儘溺れてしまつたぼくは
こんな夕に死んだのだ。


「妹さんは入院させないといけない」
医者は云つた。


「お兄ちゃんはあそこに居るのよ」
「お兄ちゃんちょっと薄くなったけど其処に居るんだよ」
「如何して見えないの、ほら、其処に居るぢゃない」
父と母に半ば怒る様に云う其の目は
確かに少し青みがかって見えたのだ。
暇さえあれば何時までも川に浮かぶ空想の帽子を追いかける妹の青みがかつた目、それは後戻りできないところまでもう少しの目だ。


当日、汽車が来るところまで寂しいかろうと一緒に附いていく。
見えない筈のぼくの手を繋ぐ妹の手は
夏だというのにぼくの手と同じくらいつめたい。
「お兄ちゃんは、其処に居るのよね」
と呟いた。


* * *


入院して暫くして、徐々に、徐々に
彼女はぼくの姿を幻だと思うようになつた。
其れはとてもとても寂しいことだつたけれど
でも其れは当たり前のことなのだ。
何時までも川に浮かぶ麦藁帽子を追いかけていては
其処はきつと三途の川だらうから。
でも初めの頃の「お兄ちゃんに会いに行く」と言って
1日中病院の玄関でバスが来るのを待ち続ける妹は、彼女は。
それでも、何時までも、ぼくには愛おしかつた。


その妹も今年の夏、退院した。


今、ぼくがそつと彼女の横に立つても
彼女は何も見えない。
ぼくの命日、何時までも何時までも頭を垂れて、手を合わせて。
ぼくが彼女の頭を撫でたとしても、涙を流したままで。
其れはとてもとても寂しいことだつたけれど
でも其れは当たり前のことなのだ。
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【2006/03/23 03:15 】 | 発狂用 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
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